原発作業員およびご家族、国民のみなさまへ

〜原発作業員のための自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)の採取(さいしゅ)と保存計画について〜

2011年5月3日
虎の門病院血液内科(とらのもんびょういん けつえきないか)
谷口修一(たにぐち しゅういち)
谷口プロジェクト事務局一同
Save Fukushima 50
(English) http://www.savefukushima50.org/?p=861&lang=en

【0.はじめに】

 福島県の原子力発電所(原発、げんぱつ、といいます)で、3月11日の地震と津波により起きた事故は、今まで世界の誰も経験したことがないような大問題となっています。その問題は今も続いており、今後もすぐには解決しそうにありません。この事故をなんとかしようと、多くの作業員のみなさまが、原発を直したり、少しでも良くするために、大変な努力をされていることは世界中のみんなが知っています。私たちは、放射線が出ているとても危険で難しい仕事場の中で、日本のためにはたらいている作業員のみなさまに感謝しています。

 一方で、私たちは、その仕事中に万が一、大量の放射線をあびてしまう(被ばく、といいます)という事故が起こることを心配しています。私たちは、原発で作業を続けてくださるみなさまへ、私たち血液医療の専門家ができることは何か、ということを3月11日以来ずっと考えました。そして出た結論の一つが、原発作業員のみなさんの自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)を前もって採取(さいしゅ)、保存することを提案し、実際にそのための準備を整えることでした。外科手術など多くの他の医療と同じく、この方法には良い面も悪い面もあります。しかし、私たちは良い面のほうが多いと考え、自分たちの家族がもし福島原発ではたらくのであれば、必ずこの方法をすすめると思います。

 自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)の採取と保存は、大人にも分かりにくく、ちょっと聞きなれない、特別な方法に思えるかもしれません。でも実は、この方法は、世界中で何万人もの健康なボランティアの人たちがすでに経験したことのある方法です。そんなに特別なことではありません。今までのボランティアの人たちと大きく違うのは、採取したあとに他の人にそのままあげてしまうか、原発作業員の人たちが、将来自分が病気になったときのために保存しておくのか、というところです。

 私たちは、大人でも子どもでもよく分かるように、私たちのこの意見を文章にまとめました。できるだけ分かりやすい言葉で、私たち自身の子どもでも理解できるくらいにやさしくです。きっと原発作業員のみなさまにも、お子様をお持ちの方はいらっしゃるでしょうから、みんなにきちんと私たちの意見を分かってもらうためです。少し長くて大変かもしれませんが、じっくり読んでもらえるとうれしいです。

【もくじ】
0.  はじめに
1.  私たちが今回の提案を考えた理由
2.  どんなときに保存した血液の細胞が役に立つのか
3.  自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)の保存とは
4.  どうして前もって自分の血液の細胞を保存するのか
5.  採取(さいしゅ)、保存するときの方法
6.  私たちの提案に対する反対意見
7.  放射線事故の危険性について
8.  採取、保存するときの問題点
9.  誰が保存すればいいのか
10. 分かりやすくするためのたとえ話
11. 私たちの計画の現在の状況
12. おわりに


【1.私たちが今回の提案を考えた理由】

 私たちは、福島県の原子力発電所で起こった大変な事故を、なんとか解決しようと一生けんめい努力している、原発作業員のみなさまを応援しています。私たちは、医療の、特に血液の病気の専門家ですから、原発を修理するのには何の役にも立ちません。だけれども、原発作業員のみなさまが放射線の事故で病気になったときは、私たちのできることを精一杯やろうと思っています。さらに、もしもの時のために、できるだけ準備をしておこうと考えています。備えあれば、うれいなし、ということです。なぜなら、原発作業員の人たちは、すごく危ない仕事場で、日本のみんなを守るためにずっとがんばっているからです。彼らだけを危ない目に合わせて、自分たちが知らないふりをするのは、とても良くないことだと思うからです。

 原発作業員の人たちは、放射線がたくさん出ている危ない場所で仕事をしています。もしたくさんの放射線をいっぺんにあびてしまった場合は、体のいろいろなところが病気になります。特に病気になりやすいのは、体中を流れている血、つまり血液で、ある程度の放射線の量をこえると血液の細胞が減ってきて、もっとたくさんの放射線をあびると、おしまいには血液の細胞がなくなってしまいます。血液は、体に酸素をはこんだり、けがをしたとき血を止めたり、ばい菌から体を守ったりと、とても大切な役割をする、人間が生きるのになくてはならない成分です。ですから、血液の細胞がへってしまうと、貧血になってふらふらしたり、血が止まらなくなって体からどんどん出ていったり、ばい菌が体中で暴れだしたりと、とても大変な病気になってしまいます。

 もしも放射線をたくさんあびるような事故がおこって、血液がへる病気になったときは、私たち血液の医療の専門家が、すぐに治療をしないといけません。福島の原発事故のことを聞いたとき、原発作業員のみなさまの万一の事故にそなえて、病気の治療をできるだけ上手にできるように、前もって自分の血液の細胞、造血幹細胞(ぞうけつ かんさいぼう)をとって保存しておけばいいじゃないか、ということを私たちは思いつきました。

【2.どんなときに保存した血液の細胞が役に立つのか】

 原発作業員の人たちは放射線がたくさん出ている場所で、放射線をあびすぎないように、慎重に気をつけながら仕事をしています。でも万が一、思いがけない事故や地震が突然起こったりして、たくさんの放射線をあびてしまった場合には、体のいろいろなところが病気になってしまいます。前にも書きましたように、特に病気になりやすいのは血液です。こういう時に役に立つのが、健康な血液の細胞を体のなかにいれる移植治療(いしょく ちりょう)です。保存しておいた血液、つまり自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)を使った治療は、骨髄移植(こつずい いしょく)とよく似た治療で、血液を作るはたらきを回復させるための移植治療の一つです。

 少し血液がへる程度の、ちょっと多めの放射線をあびたくらいであれば、移植治療のようなことまでしなくても、血液を増やす注射をするだけで、へった血液が治る場合もあります。ただ、このような場合でも、血液を増やす注射だけするより、移植治療を一緒に使った方が、より早く回復する可能性があります。

 逆に、一度にものすごく大量の放射線をあびてしまった時には、血液以外のところも重い病気になってしまいます。このような場合に、私たちの計画があまり役に立たないのは、専門家ですから自分たちでもよく分かっています。でも、血液は体中をまわっているとても大切な体の成分なので、血液が治れば、体の他のところが病気になったとしても、治療がやりやすくなると思います。しかし、放射線のダメージが強すぎる場合は、移植治療や他のいろんな治療で手をつくしたとしても、命が助からないこともあります。どんなに医療の技術が発達していて、あらゆる治療法を用いたとしても、治すことが難しい場合が残念ながらあるのです。

 このように、自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)を使った治療は万能ではありません。ただ、ある程度の放射線事故で血液の病気になったときには、必ず役に立つ治療法だと考えています。

【3.自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)の保存とは】

 造血幹細胞(ぞうけつ かんさいぼう)とは、血液の細胞をつくるおおもととなる細胞です。この細胞を健康なときに“自分の血液の中から”抜き出し(採取、さいしゅ、といいます)、将来、これを使った治療が必要になった場合に備え、冷凍(れいとう)して保存しておくことを、『自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)の保存』といいます。血液の細胞がなくなるくらい放射線をあびてしまったら、冷たいところで保存しておいたこの血液の細胞を、とかして体の中に戻すのです。これを『移植する』といいます。この治療方法は骨髄移植(こつずい いしょく)とよく似ていて、血液をつくるはたらきをよくするための治療法の一つです。血液が病気になった人に対しては、すでに日本でも外国でも、世界中でたくさん行われてきた治療法です。

 ちょっと聞いたことがないような、大人にも難しい方法とお感じになったかもしれません。でも、まだまだ知名度は低いですが、この保存の方法は世界中で何万人もの健康な人たちが、すでに経験したことがある方法なのです。この人たちは、自分のきょうだいや他の知らない人でも病気になった人に、血液を分けてあげたという、ちょうど献血するのと同じようなボランティアをした人たちです。病気になって困っている人たちのために、血液を分けてあげようという元気な人たちは、日本でも他の外国の国々でも、この方法で造血幹細胞(ぞうけつ かんさいぼう)を採取し、保存することができます。日本の血液専門の医療者もこの方法を多く経験しています。

 これと同じ保存の方法を、原発作業員のみなさまもやったらいいんじゃないか、というのが私たちの考えた事です。他の人にあげるのではなく、危険な場所ではたらく原発作業員の人たちが、もしものときのために自分たち用に保存しておけばいいかも、というアイデアです。今までボランティアの人たちがしてきたことと大きく違うのは、他の人にそのままあげてしまうか、将来自分が病気になったときのために取っておくのか、というところだけです。難しい言葉を使っているようですが、実は、そんなに特別なことをしようと言っているのではありません。

 つまり、これまで説明したように、現在でも日常的に健康な人でも行われている方法を、原発作業員の人たちにも提供しよう、というのが私たちの提案にすぎません。通常の生活よりも被ばく量が多い仕事場ではたらく原発作業員のみなさま自身が、もしものときのために自分たち用に保存しておくことは、思いがけない事故でたくさん被ばくしたときの治療に役に立つだろうという考えなのです。

【4.どうして前もって自分の血液の細胞を保存するのか】

 放射線の被ばく事故が起こってしまってから、他の健康な人などから別の血液の細胞をもらって移植することもできます。骨髄バンクやさい帯血(さいたいけつ)バンクという言葉を聞いて知っている人も多いでしょう。自分の血液を保存していない場合は、あとできょうだいや骨髄バンクなどを通じて、他の人の造血幹細胞(ぞうけつ かんさいぼう)をもらうこともできます。しかし、完全に血液の型が合う人が見つかることは今でも難しく、うまく見つからない場合や、仕方なしに一部ちがう血液の型の細胞を使って治療をしている人もいます。また、他の人からもらうまでには時間がかかりますし、他の人の細胞を移植するために起こる拒絶反応(きょぜつ はんのう)を防ぐために、いろんな薬をたくさん使ったりするので、治療はとても大変になります。

 自分の造血幹細胞(ぞうけつ かんさいぼう)を前もって冷凍して保存しておけば、もしもの事故の時はとかしてすぐ使えるし、もともと自分自身の細胞ですから、拒絶反応の心配はなく、よけいな薬も使わないですみます。ですから、治療は他の人のものを使う場合にくらべ、上手くいきやすくなります。ぜったい上手くいく治療法というのは残念ながらありませんが、放射線被ばく事故で移植をする場合は、他人の細胞を使った治療より、自分の細胞を使った方が、成功する可能性が高いと私たちは考えています。

【5.採取(さいしゅ)、保存するときの方法】

 造血幹細胞(ぞうけつ かんさいぼう)を前もって採取、保存するときには、私たちの病院に来ていただいて、数日のあいだ骨髄(こつずい)から普通の血液の中(末梢血、まっしょうけつ、といいます)に、造血幹細胞を送り出すための専用の薬を注射します。そして、血液検査で確認し、造血幹細胞が血液の中に出始めたら、採取をはじめます。採取は特注の機械を使って行います。これを末梢血幹細胞採取(まっしょうけつ かんさいぼう さいしゅ)といいます。今回の計画には、私たちの病院だけでなく、全国107の病院も協力してくれる予定なので、他の病院でも行うことが可能です。

 採取する血液の量は、缶ジュース1本にも足らないくらいの少しの量です。一度、血液を外の機械に抜き出し、機械のなかで造血幹細胞(ぞうけつ かんさいぼう)とそれ以外の血液の成分に分けます。必要な分だけを保存のための専用の袋に、それ以外の血液の成分は体のなかにもどします。治療に必要と考えられる量を採取するには、通常3〜4時間かかり、採取の間はベッドに横になっていないといけません。もし1日でとれない場合は、もう1、2日かけて行うこともあります。
 
【6.私たちの提案に対する反対意見】

 私たちの、自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)を採取、保存しようという提案に対して、『そんなの駄目だ、あんまりお勧めしません』という偉い人たちもいれば、『それはとてもいい考えだね』と言ってくれる専門家たちもいます。日本や外国の血液や被ばく医療の専門家の間でも、この意見は分かれているのです。私たちも、意見が分かれるのは当然だと思います。なぜなら、今回福島で起こったような、地震や津波の自然災害によって大きな原発事故が起こり、しかも、その修理に長い時間がかかるという経験は、人類の歴史のなかでも全く初めてのことです。ですから、それに備えた医療の準備は、世界中のどんな有名な専門家であっても経験したことがないのです。

 政府や原子力安全委員会の人や専門家で、反対している人たちの意見はこんな感じです。
『そんなにたくさんの放射線があたらないように、ちゃんと気をつけて測っているから、そんな大量被ばくの事故はおこらない。』
『外国の人たちもそんなことは勧めてないし、日本人みんなが納得している提案でもない。』
『病気になるのは血液だけじゃないので、他のところが病気になったら役に立たない。』
『少しくらい血液の細胞が減っても、注射で治るから大丈夫。』
『血液の細胞を保存するときに薬の注射をするから、その薬で病気になったらかえって危ない。』
『お金だってたくさんかかるんじゃないの?』
『誰が事故にあうのか分からないから、みんながするのには無駄が多すぎる。』

 次に、これらの反対意見に対して、私たちがどう考えるのか説明していきましょう。

【7.放射線事故の危険性について】

 『大量の被ばく事故が起こらないように、きちんと測っているから心配しなくていい。』、と反対する人たちは言っていますが、そもそもめったに起こらない地震と津波で今回の原発事故が起こったことは、世界中のみんなが知っています。万が一、作業をしている間に地震や津波がおこったり、原発の建物がこわれたりして、たくさんの放射線をあびてしまう被ばく事故が起こることもあるんじゃないか、と私たちはとても心配しています。偉い地震学者の人たちは、まだ大きな余震が起こることを予想していますし、つい最近、津波にそなえて、福島原発に新しい防波堤を付け加えられることが決まったばかりです。

 また、新聞などを読むと、作業員の人たちがあびた放射線の量もちゃんと測られていないと書いてあります。今までどれくらい被ばくしたのか、きちんと分からないのでは、たくさん被ばくしないよう気をつけていると言われても、とても安心することなんてできないと思います。また、いま働いている人たちの血液検査などの健康診断が、ちゃんとされていなかったという話も聞いています。同じ量の放射線をあびたとしても、異常がでにくい人とでやすい人がいます。ですから、すでに作業をした人も、これから作業を始める人も、一人一人をちゃんと診察して、定期的な健康管理することがとても大切だと思います。
 
【8.採取、保存するときの問題点】

 反対意見の人たちが言うとおり、自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)を採取、保存することは、いい事ばかりではなく、問題点もあります。主に3つの問題点があげられるでしょう。健康な人に専用の薬を使うこと、費用に関すること、それと、採取にかかる時間です。

 一つ目は、健康な人に専用の薬を使う問題です。専用の薬を使うので、すごくたまにですが、薬のせいでよけいな重い病気になってしまうことがあります。また、何年も経ってから、薬のせいで白血病という別の血液の病気になっちゃうんじゃないか、と心配する人もいます。しかし、健康な人が何日か注射するだけであれば問題ない、というのが世界中の専門家の意見です。世界中の骨髄バンクなどで、健康な人にこの専用の薬を使うことはすでに認められています。でも、このやり方をしたあとに、こわれた原発の修理に出かけた人は世界中どこにもいないので、私たちも、まずは大丈夫だと考えていますが、ぜったいぜったい安全とまではいえません。ですから、注射をして血液を保存しておいてから原発で働くのと、保存せずに働くのと、どっちが安心できそうか、よくよく考える必要があります。あとは、いっぱい注射をしたり、検査をしたり、専用の薬のせいで熱がでたり、頭痛や腰痛になったりするので、不愉快な思いを我慢しないといけません。

 二つ目は、保存にかかるお金のことです。採取のためには入院していただく必要があります。毎日の注射と採血、その間の思いがけない副作用に備えるためです。ですから、様々なお金がかかります。これは治療目的ではないため、全て自費診療(じひしんりょう、自分でお金を出すということ)となります。しかし、地震のあとに多くの方がたくさんの物やお金を寄せてくださったように、原発作業員で採取される方に対しては、ご負担が少しでも軽くなるようにと、一部の薬や機械の部品については、会社が寄付してくれたものもあります。これらを使い、最小限の負担となるよう、私たちの病院では準備しています。詳しい費用についてはご連絡いただければ説明を差し上げます。

 三つ目は、採取にかかる時間の問題です。日本でも世界でも普通に使っている専用の薬を使って、普通のやり方をすれば、採取がおわるまでに4、5日くらいかかります。もっと早くすましてくれ、という人のために、別のやり方も用意しています。外国で使っていて、日本ではまだ使っていない薬を使う特別なやり方をする方法です。健康な人でこの薬を使ったやり方は、他の国でもまだあまり行われたことがありません。ただ、このやり方をすれば、2日くらいで、普通のやり方をするより短くてすむ、というのがだいたいの見積もりです。いずれにせよ、採取する間は入院する必要があり、その期間はお仕事を休んでいただかなくてはなりません。

【9.誰が保存すればいいのか】

 原発作業員の中の、誰が私たちの提案する計画を実際に受け、自分の造血幹細胞(ぞうけつ かんさいぼう)を保存すればいいのか、というのは難しい問題です。みんなが一人一人違うからです。若い人もいれば年配の人もいます。放射線のせいで病気になりやすそうな人もいれば、そうじゃない人もいます。また、原発の仕事と一口に言っても、ずっと長くはたらく人もいれば、ちょっとの間だけしかはたらかない人もいると思います。仕事に慣れたベテランの人もいれば、仕事場に生まれて初めて行く人もいます。はなれた所であまり危なくない仕事をする人もいれば、放射線の出ている場所に近づいて、すごく危ない作業をする人もいるんだと思います。一人一人の考え方も違うでしょう。事故なんか起こらないだろうから大丈夫、と思う人や、心配性だからできることは何でもやっておいて安心したい、という人もいるでしょう。

 ですから、私たちの計画についてよくよく説明を聞いて、十分納得してもらった上で、保存をするのかしないのか、原発作業をされる方の一人一人がちゃんと選べるようにするのがとても大切だと考えています。これは、原発作業員のみなさんは全員保存しないとか、全員保存するとか、いっぺんに決めてしまうより手間のかかる方法ですが、一番いいやり方だと思います。

 私たちは原発での作業の様子をテレビや新聞などで知っているだけで、実際の原発の仕事場がどうなっているのかは、行ったことがないので分かりません。危なさがどれくらいあるのか、本当のところは知らないのです。ただ、この作業はまだまだ長くかかりそうだという話です。今まで起こったことのないようなタイプの大事故なので、危険がとても多いようにみえます。

 私たちの提案は、大きな原発事故に対して人類の歴史の中で初めて行うような計画になります。私たちの提案した計画は正しいことなのでしょうか? どんな偉い人でも、賢い人でも、外国の人でも、その正解を教えてくれないし、そもそも正解を知っている人なんて神様しかいないのです。そんなことはやったことがないからやらない方がいいよ、という人がいるのも、もちろんよく理解できます。ですから、何年か経った将来には、やっぱりやらないで良かったね、ということになるかもしれません。逆に、あのときやっておけば良かった、という話になるのかもしれません。福島県の原発事故は、日本で起こった大事故なのですから、私たち日本人が自分自身の頭でちゃんと考えて、自分の責任でどうするのかを決める必要があるのだと思います。

【10.分かりやすくするためのたとえ話】

 私たちの提案を分かりやすくするために、たとえ話を使って説明してみると、こういうことになります。

 津波に対して堤防をつくることを考えてみてください。政府や原子力安全委員会などの人たちは、5メートルの高さの堤防を作りました。今のところ、これで十分防げるだけの大波しか来ていません。でも、私たちは津波がきたときに備えて、7メートルくらいの高さの堤防にしようよ、と提案しています。それには手間もお金も時間もかかりますし、堤防を高くするときにかえって別の事故がおこるかもしれません。これから大波しかこないなら、堤防を高くしても無駄なだけになります。逆に、大津波が来てしまったら、私たちの提案する堤防でも何の役にも立ちません。ちょうどよい大きさの津波が来たときにだけ、私たちの提案する堤防が役に立つというものです。

 また、もしものときの保険にたとえることもできます。万が一の事故が起きても、困らないように保険をかけるのです。保険をかけたからといって、実際に事故が起こってほしいと思う人はいないでしょう。私たちも同じです。自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)を保存したとしても、実際にそれを使って移植するような事故が起こらず、保存した細胞を使わないですむのが一番いいと考えています。

 私たちは、現代の医療で最もいいものを用意したいのですが、予測のできない未来や自然の力の前では、いくら人間が進化して何でもできるんだ、といばってみても、この程度のものなのです。何が起こっても大丈夫、という方法は残念ながらありません。そういう意味では、私たちみんなは謙虚な気持ちで、みんなで仲良く支え合って生きていくのが、一番大切なのだと思います。

【11.私たちの計画の現在の状況】

 私たちが最初にこの計画を提案してから、すでに一ヶ月以上が経ちました。私たちの提案に対して、原発の問題に一番くわしい専門家の原子力安全委員会や政府の人たちは反対しています。彼らの意見にはもっともな面もありますが、私たちと違って医療の専門家ではありません。ところが、日本を代表する科学者が集まる、日本学術会議の人たちも反対しているという意見が先日でてきました。私たちはこの意見書を読んでとてもびっくりしました。というのは、偉い科学者たちが集まって書いたはずの作文なのに、内容が間違いだらけだったからです。この人たちは、自分たちがどうして反対しているのかきちんと理解せずに、ただ反対意見を言っていた、ということです。ここで私たちは、よく勉強している大人の人たちにも、ちゃんと私たちの意見が伝わっていないことに気づき、自分たちの説明の方法に不十分な点があったことがようやく分かりました。

 今回の原発事故の問題を分かりにくくしているのは、私たち専門家が難しい言葉ばかり使っているのも原因の一つだと分かったのです。専門家だけで通じる特別な言葉を使って議論するだけでは、全く駄目だということです。私たちは医療の専門家ですが、その仲間の間でさえも、うまく言葉が伝わっていないために勘違いが起こっています。意見が違うというだけでなく、思い違いや誤解があるために別の意見になってしまうのです。科学者の間ですらこうですから、原発作業員のみなさま、そのご家族や親戚、友人たち、さらには一般のみなさまには、私たちの意見と、政府や他の専門家たちの意見がどうしてまとまらないのか、なかなか理解できなかったと思います。

 そこで私たちは、できるだけ分かりやすい言葉で、私たちの考えを説明するために、これまでの文章を書きました。専門家で意見が違うことはよくありますので、実際のこの医療を受けるかどうかは、私たちの提案をよく理解してもらった上で、原発作業員のみなさまの一人一人の考えを大切にして決めるのが一番だと思います。福島の原発事故は、私たちの大事な日本で起きた問題なのですから、偉い人や外国の人などの意見に任せるのではなく、日本人のみんなが自分の頭でちゃんと考えて、自分自身で責任の持てる意見を持つことは、とてもとても大切なことです。

【12.おわりに】

 私たちは、今まで何年も何十年も、白血病など血液の病気の人たちの研究と治療をしてきました。これまでの知識と経験から、私たちは、原発作業員の人たちが、自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)を前もって保存しておけば、万が一、放射線被ばく事故が起こってしまったときに役立つに違いないと考えています。これは政府や他の専門家の偉い人たちが反対しても、変わらない意見です。

 最後に、私たちの大好きな宮沢賢治(みやざわ けんじ)さんの言葉を借りて、私たちの説明はおしまいにします。

 「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はありえない。」

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